黒木龍男42歳 健忘録

都内リサイクル着物販売業、週1小料理屋店主の日々あれこれを物忘れ防止に綴るブログ

黒木龍男42歳厄年

f:id:scarfneko:20180117024604j:plainズンと首を刺す1月の風が強くなってきたところで、店に到着した。
食材をドサリと下ろすとまずは煙草に火をつける。
それが俺のルーティンになっている。食事の仕込みをするのはまだ先だ。

普段が都内をあちこち回る仕事なので、こうやって地元に昼間から居られる時間があるのはいい。のんびりとした商店街の空気に触れて、金物店の猫にちょっかいを出したり出さなかったりして、週1日の趣味の時間は始まる。

「もう3ヶ月経ったか」
誰に言うでもなく一人ごちた。
店というのは贔屓にしている串揚げ居酒屋のことだ。そこが木曜を店休日にしていて、そこを間借りして9月から小料理を出す店を始めた。
若い頃飲食店をやっていたこともあり、料理が趣味でもあるのでなかなか楽しくやっている。

妻と別れ、職も失ったところだった俺は生まれ故郷である福岡に活路を求めたが、矢張り刺激の多い東京が忘れられず逆Uターンした。
3年になる。一人者の気楽さにもすっかり馴れた。
味噌汁の出汁をとる。東京者だった妻とは違う焼きあごの出汁だ。この匂いが充満する、この時間が好きでたまらない。

ところで俺の生業は、一般家庭から着物を買い取り、悉皆を施し再度販売するというリサイクル業者だ。元は呉服店に勤めていた。先月と今月は着付の依頼もあり忙しく、開業して2年で、やっとまあまあの売り上げになった。脱線したが、まぁその関係で着物がふんだんに有る。ので、週の半分くらいは着物を着て生活している。この小料理屋でもそうだ。早くもこの街では「着物のおじさん」と呼ばれているようだ。悪いことはできない。

以前は高円寺や吉祥寺など中央線沿線に住んでいた。離婚時に猫を3匹全て引き取るという無茶なことになり、さすがに3匹は…と、どこにでも断られたが唯一「いいよ」と言ってくれたオーナーさんがいたのがこの街との縁だ。程良い田舎のこの街は、老後を考え始めた俺にピッタリだと思った。
住み始めてみると、悪くない。
老眼も始まった。白髪も少なくはない。

これはこの街で年を取っていく、俺の物語だ。